![]() マガジンハウスのクロワッサンでお世話になった稲葉小太郎さんが退職されて本を出されました。トランスパーソナル心理学を日本に紹介した人物、吉福伸逸の評伝です。トランスパーソナル心理学を正確に理解していたわけではないのですが、ふんわりと聞き齧ってました。 吉岡伸逸という名前は覚えていませんが「タオのプーさん」など翻訳された本には馴染みがあり。自分は80年代のカウンターカルチャーの最後尾のあたりに哲学科の大学生で、宗教哲学を学ぼうとしていたので極々自然にLSDによるメディテーション、カルロスカスタネダ、ほびっと村、ホピの予言、タオ自然学、ホロン革命、複雑系、神秘学、アーガマ、グル、などの精神世界、ニューエイジ系(もうこの呼称自体が使われなくなり知られなくなって久しい)などといった言葉がとても身近に転がっていた感じでした。同じ感覚でジャズミュージシャンの名前を懐かしく読んだのは、当時ジャズ好きな先輩方に色々教えていただいたため。 読み進めるごとにうわあー懐かしい!!しばらく聞いてなかったその単語!!となりました。何か新しいことが始まっているというワクワクした気持ちと、一方で今も忸怩たる思いが払拭できずにいますが無責任に面白がっていた気持ちも蘇ります(学生ですから無責任なんですけど)。これらの言葉に怪しい響きは極めて少なかった。当時は。いやあったのかも知れないけれど、熱気に隠れて見えなかった。宗教学者たちが宗教者であることもトライアルな試みとして受け入れられていた時代です。 本書の中で声を上げ呻いてしまったのは、1985年に吉福が総合司会を務めたという第9回トランスパーソナル国際会議に関わった面々。組織委員長に京セラKDDI創業者稲盛和夫、組織委員にソニー創業者井深大、河合隼雄、千宗室、山口昌男、、、いや本当にこういう時代だったんですよ。企業家も文化人も得体の知れない(吉福自身も日本で開くのはまだ早いとすら思っていたという)メディテーションの学会に名を連ね集っていた。そういう時代でした。いやーもう何度も言いたくなるけどそういう時代だったんだってば!!今や跡形もなく表舞台から消え失せているけれど。 稲葉さんが印度哲学を学んでいらしたことは知っていたので、この時代のカリスマ的なヒーラーの評伝を書いたことに特に違和感はないのですが、一緒にお仕事していたときには本当にこういうことは一切お話ししませんでした。 稲葉さん自身がどう考えていたのかは本書で少し触れられている文章で類推するのみですが、やはり1995年オウム真理教による地下鉄テロ事件の影響は大きかったようです。真理を求めて気がついたら人を大量に殺していた。極言すればどの宗教にもついてまわるはずの闇を、誰も解明できないまま黙して語らなくなってしまった。私自身も混乱して幾つかの論考を読んでみたけれど答えも見つからず、この手のものから距離を置きました。”科学で説明できていない現象とも自分はバランスよく取り入れて付き合っていってる”みたいな変な自信はもうこっぱみじんになったわけです。自分としては9.11よりもずっと大きなトラウマです。 けれども気がつくと”スピリチュアル的なるもの”はいつの間にかブームが来たり来なかったりを繰り返しながら、自分よりも若い世代の人たちにそれこそ「バランスよく取り入れて」好まれてようにも見える。うまく説明しにくいけれど、末期癌の治療から冷えとり、自然農法などなど、様々なものに広く浅く散っている。そしてそこには恐ろしいくらいかつてのニューエイジや精神世界界隈で培われた流れが分断されている。当時を知る者にはライト過ぎて戸惑うばかり。稲葉さんも少なからずそう思っていらっしゃるのがわかり、ちょっと嬉しかったです。 吉福に話を戻しますと、ジャズミュージシャンを目指して渡米、挫折し放浪中にドンファンの教えを読んで開眼。帰国後はトランスパーソナル心理学のワークショップを熱心に行い、翻訳活動に邁進。当時のワークショップのエピソードを読むと、ああ、そういう人多かったよね。と苦しくなりました。問答ふっかけて論破して叩き潰す人。当時から苦手でw 麻原彰晃もそうだったようだけど、叩きのめして従属させて入信させる。ただし吉福はそうやってグルとなっていくのを嫌っていた。それでもたくさんの人が集まってくる。その後昭和の終わりとともに日本での活動を脱ぎ捨てるようにハワイに移住して五十近いのにサーフィンにのめり込んでいく(海のあるところに移住するところで少しだけ自分に重なりました)。ここでまたノースショアで伝説の人になっていくところがさすがです。ジャズミュージシャンとしての挫折と悲しみを常に抱えながらも、すば抜けた能力と魅力に溢れた人であることは間違いなく。 彼のハワイ行きが10年いや6年遅く、95年の地下鉄テロ事件を日本で見ていたら、何を思い、書いただろうか。 莫大な資料を辿り、現地にも足を運び、たくさんの人に会って話を聞いて。当時を知らない人にもとてもわかりやすく読みやすい評伝にまとめてくださったこと(おそらくセラピーについては難解な言葉がたくさんあったのではないでしょうか)、まったく余計なお世話ですが、やっぱりありがとうございますという気持ちになってしまうのでした。ジャズとニューエイジとサーフィンのどれかに興味あればぜひ読んでみてください。https://www.kousakusha.co.jp/BOOK/ISBN978-4-87502-526-9.html
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by riprigandpanic
| 2021-05-28 11:27
| ほんっ
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