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変わったのだろうか

ミシマ社の三島さんが本を出した。
ミシマ社という小さな出版社を立ち上げることについての話です。

計画と無計画のあいだ---「自由が丘のほがらかな出版社」の話

三島邦弘 / 河出書房新社



いやもう何年も本を出す企画を三島さんとすすめているのであるが、なかなか進みません。
すいません。取材をルーティンワークの間に入れるのが、本当にへたくそでして。

という謝罪をかねて先月はじめてミシマ社の社屋をたずねた。創立何周年だっけな、のパーティーだったので。不思議な場所だった。

人がたくさんいたこともあって、よくわからないまま帰宅。

本を読んでみて少しわかりました。

三島さんはほんとうに理屈抜きで、とにかく恐れず身体や手を動かせるひとなのは、打ち合わせや取材同行していただいて知っていたけれど、
まさか会社までその調子で立ち上げて突っ走っていたとは、ちょっと予想はしていたけど、
想像の範疇を超えていた。



私は出版業界に関わってもう二十年になるけれど、ほとんどの時間を業界の隅っこで小作請け負いをしていたにすぎなくて、一応まがりなりにも著者として一部の編集者や版元の目に留めていただけるようになったのは、ここ二、三年くらいのものです。ペーペーもいいところです。
いろいろ不自由を感じます。斜陽の業界で、売れない、ということももちろんありますが、そうでない慣習的なところでの不自由をいろいろ感じます。口に出して言わないのは仕事が来なくなるのが怖いからそれだけですよもちろん。あったりまえじゃん。それと目の前の人に言ってもしょうがないか、的なことが多過ぎるから。もはや社会はそうやってできているのだと思いはじめました。たいへん遅まきながら。

そのかわり、なぜそうなのかを知りたいので、若手の編集者の方々が持っておられる憤懣はわりと丹念に聞かせてもらいます。ただ最近それもすこし飽きて参りました。版元や流通が陥ってる問題を、いまの私の立場ですこしでも、ほんのすこしでも変える事は不可能だということがだんだん私なりにわかって来たから。

三島さんは中堅版元の編集者として、そこらへんの憤懣ときちんと向き合って、打破する手段として、新規参入、つまり自ら出版社を立ち上げる事を選んだ。やりかたとしてはかなり無茶だけど、気持ちにブレがないから、なんとか行くんじゃないかって関わった人たちみんなが思ってしまう。そういう人だし、そういうスタッフを集めて、そういう会社にしてる。おもしろいです。

三島さんの本を、こうすれば何かが変わるとか、そういう読み方をするべきではないと思う。えーとそういう方法が書いてあるようにも思えない。
ただひたすら無尽蔵のエネルギーをもって目の前のことをする。それだけが不可能を可能にする、のかもしれないと、そういうことです。とにかく止まらなきゃ少しは進むというか。必死に走れば多少は前に進むというか。

私もけちくさい躊躇や不満その他のいろいろは折り畳んで(捨てられるような人格者ではありません)、莫大なエネルギーを孕む本を書いて、売れない市場に出して売るしかない。十年前なら五倍は売れたのにと思うよりは、五倍のエネルギーをもった本を書けば、十年前の売れ行きと同じ数字が出せる、つまりはたくさんの人に読んでもらえる、かもしれないと思って書くしかない。どちらかというと省エネで生きていきたいわけですが、まあここはしかたないかなと。

今の私にはそれくらいしかできることはない、ということに、気づかせていただきました。

そういうわけでがんばりますから、三島さん……。ほんと、すんません。うすのろで。


私は3.11以降の世の中ががらりと変わったとは、あんまり思っていない。災害によって手助けしていかなければどうにもならない人が多くなって、景気がさらに悪くなって、消費動向とか、変わった部分はあるけれど、社会のシステム的には変われてない部分がほとんどなんじゃないのかと思うし、もっと広義でいえば、なんにも変わらない。人はひとりで生まれてひとりで死んでいくだけです。生きてる間は、離乳を終えれば生物の死骸を摂取しつづけます(点滴で生存するばあいは別かな)。糞袋ですから。僭越ながらそこからぶれない本が書けたらいいなと考えております。

というわけで、いろいろあって(本当にいろいろ大変ではありましたが)滞っている仕事を
なんとかするべく、
気合いを入れようと思います。はい。はい。はい……。
by riprigandpanic | 2011-11-30 01:40 | ほんっ


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