作家の読書道というコーナーでインタビューを受けました。瀧井さん、ありがとうございました。もーなんのくそおもしろくもない読書遍歴でごめんなさいって感じです。
で、そこにある通り、私はかなりの少女漫画読みだったのである。それも八十年代、白泉社というよりは集英社小学館、「りぼん」よりは「別冊マーガレット」だった。同時期の少女漫画好きの方ならわかるとおり、現実的にありそうな環境におけるご都合恋愛物語が多産されてたゾーンです。SFもなけりゃ、時代物も怪談もなく、ただひたすらキャンパスライフか、高校生活での恋愛成就譚みたいな、作品が多かった。成就しない作品もたくさんあったが。 現実世界では中学も高校も大学も、どっちかというと私は閉じてる人間だったし今も基本的には閉じがちですので、よく「花ゆめ」派の同級生たちから「別マ」を読むとは意外だと言われたもんでした。現代語で平たくいえば、「腐女子にみえるのに、なんで腐女子色の強い漫画を読まないのか」ということかと……。……。 「ぼくの地球を守って」とかが連載してた頃だったかなあ。あたしはホントにSFがいまいち読めないんですよ。星新一読んだだけ。フィリップ・K・ディックとかもまるで読んでません。はい。なぜなのかと言われてもなあ。なんかルールを覚えるのがしんどいの。ファンタジーも割とそう。でもファンタジーはまだ読むな。それと、今もその傾向があるんだが、服がちゃんと描けてない少女漫画が嫌だったんです。当時から服大好きだったんで。服や髪型がオンタイムでスタイリッシュに描けてるとそれだけで気分が上がるんですよ。 話を戻すと、当時の別冊マーガレットのヒット作品といえば、「いたずらなKISS」で「ホットロード」っすよ、たしか。あたしが好きだったのは週刊マーガレットから出てヤングユーに移って行った岩館真理子や、山下和美とか、ですかねー。マーガレット系ではないですが小椋冬実も大好きだったなあ。清原なつのとか、吉野朔美も萩尾もとも大好きでしたが、そういう文学やサブカルの香りなしの、どストレートな少女漫画も当時浴びるように読んでいたわけです。ほとんど忘れましたが。 今思えばね、セックスシーンなんかほとんどないものの、あれはやっぱり女子のエロ本みたいなものだったんじゃないかと思う。読んだことないんだがハーレクイーンロマンスとか、見たことないんだがヨン様がでてた冬のソナタもそうなのかな。 今、あきらかにこのテの少女漫画の需要は減っているだろう。刊行点数の少なさからして明らかだ。むしろSFだのタイムトリップだのファンタジー的要素が入った作品を多く載せていた、白泉社系の少女漫画の方がぜんぜん元気なんじゃないのかなあ。読者である少女はどこに消えたのか。携帯小説なのかなー。よくわからん。 で、ここからが本題で、そういう現実を舞台にいわゆるありえそうでありえない恋愛成就譚を描く一群のなかにいくえみ綾がいたと思う。彼女の描く男の子は常にその時期の女の子が「かっこいい、愛しい」と思えるなにかを持っていた。セリフだったりしぐさだったり、姿形だったり、目つきだったり、服の着こなしだったり。 たいていの少女漫画家は、一定の年齢を超えるとそういうディテールが描けなくなるようだ。九十年代後半にはあたしはもう「いまどきの男の子の姿形」がカッコイイとは逆立ちしても思えなくなってて、ちょうどその頃、だれなのかは分からないが少女漫画家と編集者が打ち合わせをしている席の隣に居合わせて、「腰履きの男子を描いたりルーズソックスの女の子を描くのが辛い。なにがかっこいいのかわからない」と少女漫画家がこぼしているのを盗み聞いて、目頭が熱くなったのを覚えている。……だよなあ。少女漫画家ってたいへんな職業だよなあ。 そういうディテールをずっと描きつづけられるというのは、すごい才能なのだと思う。よくしらなかったが、いまや「いくえみ男子」という言葉すらできているくらい、彼女の描く男子のファンは多いのだ。 しかしあたしも三十くらいから、さすがのいくえみ綾も読まなくなっていたわけですよ。老いれば老いるほど、年々読める少女漫画が減っていく。やっぱりそりゃいまの「別冊マーガレット」を読もうとは思わない。二十以上年下の女の子たちの恋物語をだな、なんのサブカル的な要素も、人生考えさせられるようななにかも、仕事についての姿勢だとか、こじれる親子関係とか、スポーツやら芸術やらの求道とか、そういう恋愛以外の要素が何一つ入らない話は、やっぱり読めなくなる。 しかし二年前に一回り下の少女漫画読みの友人ができて、ひさびさにいくえみ綾を薦められ、読んだのが『潔く柔く』。当時雑誌連載中。 全部で十三巻で完結。とりあえず一巻を。 これが驚くほど良かった。いやーびっくり。だってあらすじ起こすとすさまじくベタなんだもの。ものすごくかわいいんだけど、それをいまいち自覚しきれていない女の子が主人公。幼馴染の男の子はものすごくカッコイイ男の子で、中学に上がるあたりから、急速にモテるようになってた。高校にあがって、もうひと組の男女と四人でつるむようになって、ちょっと周りから羨ましがられる四人組になってて、あー書いててもこっぱずかしくなるようなんだが、そのさきもすごい。そのカッコイイ幼馴染の男の子が突然交通事故で死ぬのだ。 どーへえええええ。 じゃ、あたしはこれで失礼しますよ!!あとは御勝手に、と言いたくなるような展開なんだが、これがなー、ものすごく上手に進めていく。登場人物の総数は何人になるんだろうか。描かれるのは主人公の女の子のその後の十年間くらいで、ずっと彼女はその彼氏ですらなかったのだが、彼女のことが好きだったとあとからわかる、死んだ幼馴染への罪悪感を抱えて生きる。話はその折々で出会う友人たちが主人公になったりしながら進む。時系列もジクザグ。 数えようとして挫折しましたが、二十人以上いるんじゃないかなあ(きっとどこかのサイトでだれかが数えているはずなので探してみてください)。家系図のように、絡まり合う、沢山の若者たち。もちろんすべて恋物語!! いろんな若者がだれかを好きになったりふったりふられたりする。そのあいだにみんな高校を卒業して、都会にでてきたり、大学に行ったり、家庭教師のバイトをしたり、居酒屋でバイトをしたり、就職したらいきつけのバーができたり、教育実習したり、スーツになったら髪を短く切って登場したり。友達関係を解消したり復活したり、嫉妬したり、以下略。みんなほんとーにどこにでもいそうな若者たちがたどりそうな道の途中で出会う恋と友情。 親子関係だとか、仕事のやりがいだとか、女性性だとか、そういうことも考えざるを得ないお年頃であるし、考えて人生を歩んでいるようにちゃんと描いてるんだけど、実際にはほとんど描かれない。恋関係のみと言ってよし。あ、あと同性同士の嫉妬もあるけど男がらみだから同じこと。 じゃ、主要テーマは恋なのかというと、そうではなくて、いや、恋物語ではあるんだけど、死んでしまった人との別れ方、なんである。死者との付き合い方、とも言えるか。これを少女漫画の王道のというか鉄板の「カッコイイ幼馴染が死んじゃった。しかも主人公の女の子もすんごいかわいい……」というストーリーで、月齢480も越えていいかげんひねくれ果ててるババアにも、若い夢見がちなお嬢さんたちにも、ちゃんと読める少女漫画に仕立てるんだから、凄いというか恐ろしいというか。 記憶違いならもうしわけないのだが、あの、テレビでちらっとセカチューを見たときに、死んじゃった綾瀬はるかを想ってあられもなく号泣したりなんだか派手に喚いていて、どん引きした。そういう人もいるだろうけど、大事な誰かを亡くしたとして、派手に悲しめる人はそうそういないのではないか。多かれ少なかれ自分の中に生き残っている自分への罪悪感を抱え込んで、沈みこみそうになりながら、必死に普通の日常を生きようとするのではないか。まわりの人間がどう手を貸したくても、ただ見守るしかない時期もある。 劇的な救いなんて、そう簡単に訪れない。ただひたすら日々は過ぎていくものだ。それでも生き続けていれば、すこしずつなにかが変容していく。 社会人になった主人公の女の子がようやく出会うべき人に会って、はじめて食事にいったら、フリで入ったフランス料理なのに、ものすごくおいしくてお互いびっくりしながらむさぼるシーンがとても好きだ。 サシで料理をおいしく食べられる人かどうかは、まあ、恋人選びの第一歩だわな。
by riprigandpanic
| 2011-08-26 20:41
| ほんっ
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