やっと読みました。 森まゆみさんの「明るい原田病日記」を読んだ時も思ったことでありますが、症例が少ない、有名じゃない病気と、国民病とまで呼ばれる超メジャーな癌と、どっちか選べと言われたら、やっぱり癌か……と思うくらい、難病は大変だなあ。辛いよ。 治療は手探りだし、周りの理解も少ないし、先行きも予想がたたない。いや、癌だって治療がきかない場合もあるし、先行き不透明なんだけれども。それでも膨大な症例が、ある程度の予測を立てることを許してくれる。病気について調べたくない根性無しでも、最低限の情報は簡単に手に入る。治療方法だって日進月歩。どんどん変わる。 乳癌の場合でも、脇下をちょっと切るセンチネルリンパ生検が一般化したのだってここ最近のこと。ちょっと前までは「念のために」リンパがっさりとりまくり、が普通だったと聞いてぞっとした。腋のリンパをとらねばならなかったら、私は絵の仕事を完全に諦めねばならなかっただろう。いやセンチネルリンパ生検だって、左腕の痛みは相当なものだったので、切り絵や製本は続けることができなくなったし、当時は細かいペン画もかなり辛かった。ロットリングは諦めた。文字を書く仕事を増やしていけないかと思ったきっかけにもなった。癌とはいえ、寝て暮らせるわけではないので、働かねばならないので、文字通り必死に現在の自分にできることを考え直した。今でも当時の気分を思い出すと胃が痛くなる。 ヨガのおかげで随分回復したから、ロットリングも切り絵も復活させようと思えばできるんだけど、たまにすさまじく痛むし、なんか文章書くのが楽しくなってしまったのでそのまんまだ。 ものすごく下世話な見方であるが、パソコンができたおかげで、文章を書くという労働は、格段に楽になった。体力の消費が大変すくない。イラストより少ないと思います。もちろん脳は疲れるんだけれども。 この本の著者である大野さんは発病時大学院生。なんの職のスキルもないままに自己免疫性の難病に罹り、長期治療を余儀なくされた。働き盛りの成人が病んだ場合、結婚しているなどしてパートナーが面倒をみてくれないかぎり、患いながら現金収入の当てを考えねばならない。これは相当にきついことだ。罹る側からすると、さっさと死なない病気ほど性質の悪いものはないのだ。八十歳を超えて子どもに全ての面倒を見てもらいながら患っている癌患者が隣のベッドに来るたびに、私は恥ずかしながら「いいなあ」と思っていた。病気の心配よりも、今後半病人状態でどうやって食っていくのかばかり考えて不安でたまらなかった。 それでも私はまだいい。うまくいっていないながらも、仕事のスキルはある程度はついていた年齢だったから。そこを基にして方針を練ることができた。 大野さんの病状を読む限り、体力を使わずに現金収入を得るのに、本を書くという仕事はかなり妥当なものだと思う。あとはネットトレーディングくらいしか思いつかない。でもあれは一応資金が必要か。あーもちろん書きたいという欲求なくしては文章は書けないのであるが、自己表現欲について語るのはあんまり得意ではないのでパスします。正直に言えば文章はまだまだわかりにくい部分もあるけれど、それはたぶん彼女のパワーであとからどうにでもするだろう。これからどう書き手として仕事をコンスタンスに得るか、健常者でもしごく大変な世界でありますが、がんばってほしいものです。 病気になってみると不思議で仕方がないのですが、世界は社会は健康な人の規準で回っています。ところが此の世には病人も半病人もたくさんいるのです。そしてさらに不思議なことに、病院は、医者と国(法律)の都合で回っています。病人に都合がいいようにはまるでできていない。金ふんだくる癖に(ええ、治療の対価なのであるから当然ですよ)、いくらかかるのかも言ってくれないし、病院にいながら働くことも事実上許されない。短期ならばまだ我慢できるけれど(といいつつ短期入院のくせに病院にバイク便に来てもらったことが三回以上ある)、一年超える長患いになると、そりゃあ大野さんのように謀反も起こしたくなるでしょう。 末期癌になってから死ぬまでをどう過ごせるようになってるのか、やっぱりどうしても気になる。積極治療をしなくなってからでもそこそこ長く生きる場合が多いから、在宅で過ごせるシステム作りが進んでいる自治体もあるようだ。そっちに引っ越すしかあるまいと思う。それにしてもやっぱり癌はさ、テレビでもこういう新しい試みを紹介してくれるし、おせーよとは思うけれどもターミナルケアも、進んでいく。あとは痛み止めのドラッグラグをなんとかしてほしいけど。ついでに言うなら乳房再建インプラント使用も保険適用にしてほしいけど。 で、はじめにもどりますが、それでもやっぱり恵まれてる病気だとおもう。美談にされたりいろいろうざい部分もあるんだけれど、どうせ罹るなら癌、とすら思いました。はい。すみません。症例の少ない病気にも、きちんとした病人ライフが送れる環境が構築されるよう、願ってやみません。ホントに。どんな病気に罹るのかなんて、だれも選べないのだから。 あ、そうだ表紙のキュートなイラストは能町みね子さんです。能町さん、最近広告のイラストも手がけてるし、とても忙しそうだが、そろそろ同業友人の少ないセンパイとも遊んでくれやー。また業界の黒い話(グチともいう)ポトラッチしようやー。
by riprigandpanic
| 2011-07-15 05:08
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