なんでしょうね。おいしく食べてもらうのに、屠畜当日の話を今書かない方がいいのか
それとも知りたいのか。よくわかりません。読みたくない人は飛ばしてください。 まず出荷。 なんの設備もないところで嫌がる百キロの肉獣をトラックにのせるのは本当に大変です。 それなりの準備をしましょう。趣味の養豚家のみなさま。 こまかなことを省きますが、伸と秀はちからずくで(手伝ってくださったみなさん、本当にありがとう)なんとかなったんですが、夢はダメでした。圧力に抗するタイプなんで。 中途半端な圧力には爆発してしまう。やるなら徹底的に隙なく圧力を加えるしかないのだ。北風作戦。 で、 包囲網を破って脱走しました。 が、この豚の性格はわたくしよく心得ております。うちざわ豚かわいがってるっていってもただ嘗められてるだけじゃねえのと、嘲笑されていたのも知っております。たしかに主従の関係ではありませんでした。わたしたち。そういうの、どうしてもダメなんで。しかしやつらが何を感じてどういう行動に出るのかは、かなり把握していましたからね。 夢はしかし生来の怖がりでもあります。けっして鉄砲玉ではない。 ですから一気に国道に躍り出るということにはなりませんでした。 躊躇したところでうまく誘導して、Uターンさせて、家の中に入れちまいました。 引き戸を閉めて、家の中で夢ちゃんと二人。話しかけてキャベツを食べさせ、撫でて、落着かせました。 普通の搬入はもっと殺気立ってますし、だいいちこういう状況になると豚も興奮してますので、なにか食べさせようと思っても食べないんだそうです。 あんまりこまかく書くと原稿に差しさわりますのでこのあたりで。 結局夢は、だれからも押されることもなく持ち上げられることもなく、あーしの誘導で自分の足でトラックに上がりました。前代未聞だそうです。種オスではきいたことありますけど、肉豚ですよ。 三匹の中で一番悪さばかりしていたので、「夢っ!」と叱り飛ばしてばかりいたので、夢が一番自分の名前を呼ばれるのに反応してましたからねえ。 ちょっと内心ドーダ気分ですよ。嘗められてようがなんだろうが、自力で誘導したもんね。太陽作戦。 なんだかしかしあんまりにもシュールな光景で、全然しんみりしませんでした。 食肉公社の係留所に降ろす時も、他の豚たちが喧嘩していて絶叫しているなかで、声をかけながらバナナを喰わせつつ、誘導。 職員の皆様から「まじっすか、バナナ喰うんすか、豚!!」と大爆笑をとりました。伝説の搬入となったことでしょう。ふふふふふふふ。 2009年9月24日の千葉県食肉公社の小動物屠畜頭数1800頭。大貫20 マックスでした。1798-1800が、うちの豚でした。 手早くさっさと肉にしてくださり、公社作業員のみなさんには 本当に感謝でございます。これまで何度も見た光景ながら、「自分の豚」が肉になっていくのを見るのはまた全然違う気持ちを味わいました。いろいろスペシャルな注文を聞いて下さって、本当にありがとうございました。貴重な体験をさせていただきました。なにもかも公社のみなさんのご厚意あってのことです。 あるポイントで、作業のおっちゃんに、「最後に来る三頭、あたしの豚なんです」と説明した時、あたしはちょっと恥ずかしいのですが、とても誇らしい気持ちになれました。 あたしの豚。 そうです。小さくても、脂が厚めでも、なんでも、この三匹はあたしが手塩にかけて育てた豚なんだと、胸を張って言えると思ったのです。 かわいそうとかあわれという気持ちがないわけではないのですが、現場ではそれよりも内臓検査合格するか、とか、皮は、頭は、というようなことに追われていて、まあつまりは吊った瞬間からもう「肉」でした。流れる血に、何かを思うことも、なかった。私の中では何度も見てきた光景にすぎませんでした。 今彼らがいなくなって、とてもさみしいです。しかしそれも心配したよりは大丈夫。空になった豚小屋とともに暮らしています。 ただ、ちょうど屠畜した日に岩波「世界」連載原稿を書かねばならず、それが昨年十月十一月に立ち会った交配についてでした。どうしても指が動きませんでした。ぎりぎりまで待ってくださって編集Nさんには申し訳なくかたじけなく。 一年弱で、彼らは無からでてきて無に還ろうとしています。 すごい速さに、呆然とするばかりです。 どうぞおいしくたべてやってください。よろしくお願いします。
by riprigandpanic
| 2009-09-28 20:41
| 三匹の豚とあたし
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