したくないけどしごとせな、と思わせる一冊

まだ韓流ブームがくる全然前に、ソウルに住んでる日本育ちの女性ライターさんだったか、と話をした。ちょっと記憶が定かではないのだけれど、日本ので在日の女子学生が就職しようとするときの困難さを聞いた。飛び抜けて優秀な学歴や資格があれば、在日であろうが女子であろうが問題なくなったと。それは明らかに世の中は変わったのだけれど、そう優秀でもなく学歴も普通の大学くらいでは、全然だめなんだと。そんなような話だった。
上が突破すると、差別が解消されたような気がしてしまうけれど、大部分の普通の人は、相変わらずということで、なんというか、ぐっさりときた。

ちょっと違うけど、似たような事を、就職活動しているときに思ってた。

私は普通の会社員になりたかった。やりがいのある好きな仕事につくのもいいけれど、というか一応そういう職種の就職活動もしたけれど、競争率も高いし、自分の低能力ではどうにもなりそうにない。ならば職種もどうでもいいし、それなりに特別なやりがいはなくてもいいから、九時五時に終わる仕事をして、余暇を充実させた人生を送りたいと、思った。

しかしそんな仕事をするんでも、バブルの就職うはうはらくちんな時期であったにもかかわらず、やっぱり、就職活動って「人一倍のやる気」とか「学生時代にやって来たこと」をなんていうのか、他の人と違うかのように印象づけてプレゼンしなければならなくて、それがものすんごく難しかった。学校教育もたぶん会社に入ってからも、「人と同じ事」することを強要されるのがわかってんのに、なんで就職活動だけ、まわりを出し抜くというのは語弊があるのかもしれないけれど、とにかく「自分」を前面に出さねばならないのか。

私はどちらかというとなんていうレベルではなく、大多数からずれた子どもだったので、「人と同じでいろ圧力」に小学校時代から延々と耐え、ちょっと気を抜いてやりたい事や言いたい事を言えばいじめられるからと、自分を出さないように出さないようにしてきたのに、は、なんだよ今更「自分らしさ出せ」ってばかじゃねえの。ホントに出したらはじくくせに。と。

ええまあもちろんこのような「斜めな心」をもった学生は、そういうオーラだしますから、すぐにわかるわけで、どこの会社も引っかかりませんでした。都心に通勤するのに一時間半以上の女子学生は、一人暮らしして「風紀が乱れる」からと、それだけで就職しにくいと、就職課の人に言われましたがね。もちろん私に高い学歴と、英検一級とか、さまざまに高度な能力があれば話はぜんぜん別だったかもしれないし。それでもなんだかんだと女子学生のみんな就職が決まり、当時、まともに就職活動してどこにもひっかからない学生というのは結構稀でして、自分が札付きの「使い物にならない人」であることを突きつけられたというわけです。

オンリーワンな、自分の名前出してするような、クリエイティブでかっこいい仕事じゃなくて、特別な能力を要求されない、誰にでもできる仕事を淡々としたいと思っているのに、なんでこんなに苦労して、それでも得られないのか。全然高望みしてないのに……。それほど高い能力のない人間にも、それなりの人生レールが敷かれてるものだとばかり思っていたのに、どうやらそんな楽勝と思われてる仕事すら、自分にとっては死にものぐるいで探さなきゃ得られないものらしい。

相当こたえました。

この歳になればさすがに会社の求める人材がどんなものかは理解できるし、どんなプレゼンをすればよかったのかも、なんとなくはわかる。自分がいかにいわゆる普通の仕事に適性がなかったかもわかるし(私が経営者なら絶対とらないと断言します)、働く気構えもできていなかったかも、どんなに甘かったかも、よくわかる。

福澤徹三さんの『東京難民』(光文社)の根性無しの主人公は、そういうわけで、当時の自分とものすごく重なって、焦げるような気持ちで読んだ。(えーと随分前に送っていただいておりました。ありがとうございました)

東京難民

福澤 徹三 / 光文社





親が倒産して行方不明になり、仕送りと大学の学費が止まり、中退を余儀なくされた青年。そこからはじまる思いもしなかったバイト人生。即金がないと困るので職種もきつめなホスト、ポスティング、土木工事などなど(この手の仕事の案内本かというくらいいろいろでてくる)。このくらい誰でもできるだろ、楽勝だぜ、と思ってる仕事がちょっとしたことでうまくいかない。どんな仕事にもつきものの暗黒部分を飲みほせない。そしてキツい割に貰えるお金も驚くほど少ない。で、辞めて別の仕事に。自分は悪くないのにだまされ、利用され、どんどんと追い込まれて、ネットカフェで泊まる金も尽き、気がついたらホームレスの雑誌売り。それでも治らないアマちゃんな根性。しかしこのお方の小説は、いつも主人公設定を甘やかさない。徹底的にこれでもかってくらいダメな奴(もはやそこまで外せば大物なんじゃというダメさではなく、妙に懲りないなおらないちょっとしたダメさが真に迫ってリアルにダメ!!なのである)にして、奈落の底まで突き落としますね。
ライオンの母ちゃんかよ……。

いやもうこの主人公に往復ビンタくらわせたいくらい、イラッイラするんだけど、同時に一歩間違えば自分も確実にこうなっていたとも思えるリアルさ。いや、今だってちょっと間違えばあっという間にこうなるのもわかってる。だからこそ、読後は焦げ焦げに炭化しました。

スーダラ暮らしていきたいものですが、いつかスーダラ暮らすために、なぜか仕事をがんばらねばならないわけです……。し、しごとせな……。
by riprigandpanic | 2011-11-22 13:49 | ほんっ


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